アニメじゃないアニメじゃない

本当の事さ…!!!



ある日の昼下がり、社員食堂にて。
いつものように、昼食についたみそ汁。
この日の実は長ナスでした。
まさかこのみそ汁が、後に惨事を引き起こすとは…
私はまだ、仕掛けられたトラップの存在にさえ気付いていない。


みそ汁ってー
一味唐辛子をひと振りすると
ちょっと風味があって美味しいじゃないですかー
私、辛いものが好きなこともあって
よくそうして食べてるんですけどー


この日はー


なんでかー


一味唐辛子のー


フタがー


完全に緩んでいてー



ひと振りしようと逆さにした瞬間ー



フタと共に大量の唐辛子が一瞬にしてガボッと



!!!!!!!!!



な…!
そんな…!誰だ!誰の罠だよ!!!
誰が私を恨んでいるんだ。
ちっくしょうまんまとトラップに嵌まっちまった!!!


それはもう恐ろしい光景でした。
みそ汁の中に、一瞬赤い小山ができましたよ。
マンガみたいだった。じゃなきゃ罰ゲーム。
少なく見積もって、大さじ山盛り5は入りましたね、ええ。
言ってみれば 赤潮 ですよ。
異常発生した大量の赤いプランクトンが底に沈んだ後も
なんかおかしい。
普通のみそ汁なのに、どう見ても赤味噌使用。
みそ汁の底2センチ、恐ろしい厚みで溜まる唐辛子。
ちょっと箸を入れてみると
ふわあっとみそ汁の中を夢のように舞い上がる唐辛子。
気が遠くなるほど夢心地。



ここまでならまだよかった。
常人なら、この恐ろしいみそ汁をすぐさま捨てて
お代わりをもらい、美味しく昼食を頂くところ。



だが、トラップの真の恐怖は、この先にあったのですよ。



恐ろしい…
このみそ汁、俺のチャレンジ精神を変に刺激してきやがった…!



元来、そこに山があれば登る
塀があればのぼって歩く
剥けそうな皮があれば血が出るまで剥く
もう遅刻だと思われる時間に家を出ても
どうにかすれば間に合うかもしれないと
敢えて仕事場に連絡せず車を全力で飛ばす
そんな無駄なチャレンジ精神が旺盛な私。
殺るか殺られるか、人生における無駄な挑戦が大好きな私。
目の前の悪魔のみそ汁に挑戦せずには居られなかった。



恐ろしい…この私の気性を熟知した上でのトラップ…
顔見知りの犯行だな。畜生一体誰が!!!



まず、唐辛子が沈んだ後の上澄みをひと口。
すでにこの時点で、10人中5人以上が脱落するであろう辛さ。
でもこの私、これくらいの辛さじゃまだまだ挫けない。
口のまわりが痛い。
喉が灼ける。むせる。
いいやまだまだ。
徐々に唐辛子層に近付いていくと、急激に辛さが増す。
もはやみそ汁の味が全くしない。
唐辛子の味のみ。
塩気が全くない。辛さしか感じない。
ここで10人中9人以上が崩れ落ちる。
ジワジワどころか、火砕流の如くに押し寄せる辛味の暴力。
一体なぜ自分はこんなもんに挑んでいるのか考えることすら許さない。
しかし耐え切り、ギリギリまで飲み干す。
やったじゃん俺!
…あ…



椀の底に残る唐辛子層は手付かずのまま。



これを。これを完全に飲み干してこそ
俺は真のチャンプと言えるんじゃないだろうか。
10人中10人が倒れたその先にある
誰も辿り着くことの出来なかった高みへ
登ることができるんじゃないだろうか。
ただ…やりきったとしても、その時俺はどうなるのか…
体がどうにかなるんじゃないのか。
むしろ、生きていられるのか。
それさえも分からない。
でも、でも俺は、闘わずには居られないんだ!!!



そして俺は、悪魔のみそ汁デスマッチ第2ラウンドへ突入することになる。



椀の底に残る赤い層の上に
更にナスのみそ汁が注がれる。
今回は作戦を立てた。
前回の失敗は、比較的辛さがマイルドな上澄みを先に飲んでしまったため
下に辛味最強ゾーンが出来上がってしまったのが原因だった。
これを克服するため、今回は、かき混ぜながら飲み
全体の辛味を均一化する作戦に出た。



285、イケル、と思った。(プロジェクトX
(ここから先、BGM「地上の星」)
最初のひと口。
辛い。火がつくように辛い。
みそ汁らしい味などない。


だが、前回の辛味最強ゾーンに比べれば
辛味はいくぶんかマイルドだった。
イケル。
飲んだ。ひたすら飲んだ。
味わうことをやめ、思考することをやめた。
もう、誰の罠かなどどうでも良くなっていた。
味覚さえ消えることを願うかのように
ただひたすら喉の奥に赤潮を流し込んだ。



そして



(BGMストップ)
気付くと、椀は空になっていた。




やりきった。(ここからBGM「ヘッドライト/テールライト」)
辛かった。つらかった。口中が痛かった。
空になった椀の底を見つめる285の目に
光るものがあった。



その後
全身は真っ赤に染まり、脂汗が止まらなくなった。
涙目になっていた。
胃が痛かった。腹の中が重くてぐるぐるして
明らかに体が異常を訴えていた。
午後、仕事など出来るわけがなかった。
みんなに「どうしたの?」と聞かれた。
詳細な理由など言えるわけがなかった。
心配した同僚の一人が、良く効く胃薬をくれた。
有り難かった。彼女を好きになりそうだった。
天使だと思った。
とりあえず、舞い降りた天使のおかげで
仕事上がりの時間まで、乗り切ることができた。



そして今朝。
我が家のトイレで繰り広げられた地獄絵図。
JIN-JIN-JIN 感じてる…!
痛くて痛くて痛くて 
ウォシュレットという名の文明に
感謝のたけを表現してもしたりない
285の目に再び光るものがあった。




完。



ヘードラァーイ テェールラァーイ 愛はーまだーおわらーないー